2014/12/29
09:00:40

野口悠紀雄氏の著書「変わった世界 変わらない日本」を読みましたので、まとめを書いてみたいと思います。
野口氏は「経済の基本的な仕組みを変えなければ、日本経済の復活はない」と述べており、「日本経済が長期的な停滞から抜け出せないのは、1980年代以降に起きた世界経済の大きな変化に対応できないからである」としています。
『80年代に生じた変化とは、一言で言えば、市場経済モデルの復活である。
それは、社会主義経済の失敗という、誰の目にも明白な形でまず現れた。また、PCやインターネットに代表される分散情報処理技術(IT)の進歩が、市場経済の有利性をさらに高めた。
この変化は、日本に不利な方向のものであった。日本の社会構造の組織原理と、親和性がないのである。ドイツをはじめとするヨーロッパ大陸の諸国も、うまく適合できなかった。他方で、アメリカやイギリスなど、従来から市場経済的な志向が強い国には有利に働いた。アメリカやイギリスが、90年代に空前の繁栄を実現できたのは、このためである。
90年代における大きな変化は次の3つである。
第1は、情報技術体系に本質的な変化が起きたこと。それまでの大型コンピュータによる集中処理から、PCとインターネットによる分散処理への変化である。
これによって、情報処理と通信に必要なコストが劇的に低下した。
第2は、新興国の工業化だ。90年代の中頃からは、中国製造業の発展が顕著になった。それまで先進国の製造業が行っていたのと基本的には同じ生産活動を、圧倒的に低い賃金で行えるようになった。
第3は、こうした変化の結果として、市場経済の優位性が復活したことである。安い賃金を利用できる新興国で製造を行い、グローバルな水平分業(アップルのように自社工場を持たずに、製品の組み立てを依頼する方式)を採用するようになったのは、こうした変化をよく表している。
新興国で生産される安い工業製品が世界市場に溢れたため、先進国の製造業が競争力を失った。デフレと言われる現象は、実際には(全ての財やサービス価格の一様な下落ではなくて)工業製品の低下だが、それは、新興国の工業化によってもたらされたものだ。
どの先進国でも製造業が規模を縮小した。ただし、経済全体に対する影響は、とくに日本において大きかった。それは、旧来型の産業構造にこだわったからである。そして、古いタイプの産業を支えるために、金融緩和と円安政策がとられたからだ。つまり、本当に必要な構造改革は、産業構造の変革だったにもかかわらず、全く逆の経済政策がとられたのである。
日本の賃金が長期的な低下傾向となっているのはこのためだ。
ところで、アメリカ、イギリスでの新しい経済活動のなかで、先端的な金融業が重要な位置を占めている。新しい金融技術は本来は経済の効率化を向上させるはずなのだが、投資銀行やヘッジファンドが高リスク投資にのめりこみ、これが2004年頃からアメリカの住宅価格のバブルを引き起こした。
バブルは07年から08年にかけて崩壊し、世界経済を大混乱に陥れた。多くの人はこれを”アメリカ型経済の失敗”と捉えた。しかし、最も大きな打撃を受けたのは、実は、日本の製造業だったのである。なぜそうしたことになったのか?』
つまり、日本で上記のような経緯が正確に理解されておらず、世界が大きく変わってしまったことの認識がないため、「そのうち良くなる」とか「金融緩和をしたり、財政支出をしたり、政府が成長戦略を立てれば、良くなる」と考えている人が多く、アベノミクスのような中身のない経済政策に対して過大な期待をしてしまうとも指摘しています。
『しばしば、「デフレが日本経済の問題だ」とされる。つまり、財やサービスの価格が低下するのが問題だというわけだ。所得が下落せずに、価格だけが下がるのであれば、実質所得は増加するのであり、何ら問題ではない。それよりも望ましいことだ。つまり、デフレが問題なのではなく、賃金の下落が問題なのだ。』
では、なぜ賃金が下落してきたのでしょうか?
1990年から2008年の期間において、製造業の賃金は上昇していたのです。しかしながら、製造業の海外移転に伴い、製造業の雇用者は減少して、低生産性サービス業の労働者(例えば介護など)が増加したために、経済全体の賃金が下落したというわけです。
日本の賃金が低下する基本的な原因は、産業構造の変化にあるため、これを金融緩和で解決できないことは明白であるとしています。
アベノミクスの成長戦略の基本は、製造業を復活させようというものですが、新興国の工業化が今後さらに進展するということを考えますと、先進国で製造業の比重が低下するのは避けられないと思われます。
そうなりますと、製造業に代わって雇用を引き受ける”生産性の高いサービス産業(IT関連サービス業や金融業など)”が重要になってくるのです。
”日本において、高度なサービス産業を発展させ、雇用を創出することが出来るのか?”、これこそが日本の将来を左右すると思いました。
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